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こもれび(20)

  め  2012   高さ百メートルに遮られし初日なりやうやう拝む辰の刻   はちきれんばかりに白き肌もつ大根一本八円といふ   数カ月を育てし大根が一本八円 でよいはずがない   三次試験まで行ったのにダメだったいつもいつも届かぬ願ひ   願ひ事投ぐれどいづれも当たらぬか双子座流星群散りゆく早し   使はぬもの見えぬところへ移動してつくづくと主婦むきではない私   初心者のテニスだから衒ひなし存分に走り負けることせり   環境制御装置の開発とふ我が脳波の先に見えてゐるもの   点滅する文字アイコンを注視するリハ研究所我は被験者     今を生きる時間計測されて歯を食ひしばれば波形が太る   MRIに脳の萎縮度測られて我が認知度は計算さるらむ   認知度を測る予備の調査なり「今日は何日」でつまづきにけり   いざ鎌倉へ歴史をたどる徒歩の旅 物好きなるが二十五名にて   いざ鎌倉へ鎌倉攻めの雑兵に成りすましてまず恋ヶ窪まで   いざ鎌倉へ 東村山徳蔵寺重文板碑「元弘の碑」あり   荒武者に従ひし兵二十万 兵糧如何に調達せしや   雑兵はひたすら歩く鎌倉古道探して街道まつしぐらなり   埼玉より東京に入るわづかづつ異なる街のことなるにほい   小平市八坂神社先「九道の辻」迷ひの桜ありて迷ひぬ   夕日さす畑にてひたひた草を抜くわれの浄土かむんむんと夏   夏の夕べもつと長くあれ俯けば風の曼陀羅草いきれなか   食パンが店先より消えたる日ないものはないとパン棚は言ふ   天地が裂けたる日 時を経て千年前の大津波見ゆ   甲高き鶏舎のざわめき一年に一羽が三百の卵生むところ   半身は家宅侵入の畏れあり塀の上より柘植を刈りゆく   珍しと言はるる姓も税務署の変換リストに載りゐるあはれ  

こもれび(19)

こもれび(19) 2011   む  2011   初釜に着物着せやると腰ひもをまはせば細き娘の体   坪庭に紅梅咲けど見る人のゐない来ない 寂しい家だ   もの覚え悪きは年のせゐにしてフラダンス夢の中にも踊る   車いすに座るホームのお年寄り木よりも深く見つめてくれぬ   それぞれの幹の太さを知らざればただひたすらに踊るフラダンス   紙吹雪のやうな老いがそこにゐてにこにこひらひら手振りてゐる   カルチャーのそれぞれに先生がゐてこの世に明るき先生ばかり   卒論が間に合はぬと弱音吐きゐしが今日は卒旅と出でて行きたり   就職難を逆手に取りて求職もせぬ子が選ぶ研究生   日暮れまで私は私 地図を手に神社仏閣訪ねて歩く   春風は散りくる花弁巻き込みて小さきつむじになりて遊べる   三月十一日午前帰国の娘午後帰国の息子震災その後   五月一日新緑の中の虎祭り牡丹の寺は牡丹が咲きて   猫撫づるごとく狛虎の背をなづる毘沙門天様お守りなされ   三富の牡丹の寺の虎祭り三百年の虎の威を借る   享保より開拓されし三富の畑のいづこ揚げ雲雀鳴く   百枚の花弁見よとて誇るごと日のもとに咲く牡丹の花は   乞食も托鉢僧も来ぬ世界所得倍増中流と呼ばれ   強風にポキツと折れぬか百メートルの高きビル建つ目障りなビル   水に入れば太古の私大胆に腕を伸ばして足に探りて   時を越える水のやさしさ水中に手足伸ばして宇宙にひたる   そら豆の莢を剥きぬ大切にしまわれし命むき出しにせり   紫の衣まとひし天女はも 芹 ( せり ) 葉 ( ば ) 飛燕 ( ひえん ) 草 ( さう ) 林床に咲く   芭蕉翁立ちたまへるや高舘の上に北上川流るるを見る   義経が妻と娘の墓所もある金鶏山こそ悲しき墓標   あと一キロが二キロ三キロと伸びてゆく何処までつづく空と山のあひ   赤き屋根なだりに見えて心強し笹に 埋 ( うづ ) もる芳が平そこ   ちちのみの父の書きゐし黒き手帳棺に納めて封印したる   入院の父が書きゐし黒き手帳『蝉声』読みて甦るなり   炊爨

こもれび(18)

  こもれび(18) 2010 み  2010   折り紙もふくだみたる我が手業アイロンがけもどこかがゆがむ   先生などと皮肉たつぷり持ち上げられいい気になつて痛む心は   ヤバイはすばらしいこと注釈を得て若きらと会話がなりぬ   たまさかにしか来ぬ息子伸びきりし時間一瞬に縮めて   道路には白い文字が落ちてゐるふしぎな時間影法師踏む   何もいらず何も望まずとのみ言ひて大正生まれもどかしき母   断念の連続なりしか大正生まれの母何もいらぬとかたくなに言ふ   潜水服を着たやうなもどかしさ「おまへは誰だ」と聞き来る母に   釣り堀にあまたの鱒の影動く釣らるるために元気に生きよ   早く釣れとばかりに釣り堀の主そと近づきてくる初めての釣り   串に刺し塩焼きにされたる鱒うまし秩父武甲に春は来てゐて   食卓にきうりの香り立ち上がり宇宙空間のやうな幻想   精神の在りかは問はず昔日と変はらずと言はれ安堵す心   六道の地獄畜生飢餓阿修羅変幻自在にこの世の人も   私はずつとここにゐたのに不在票事務所より伝言メモが届きぬ   デッキにて飲み干したる赤ワイン 今年限りの同僚とゐて   定年は諦念ならめ 平穏な今こそ退職と心は決めて   退職にいろいろ理由付けたがる小さな不安次々生まれ   窓すれすれに飛びゆく鳩よ何話してゐるのかその空気感   楽しさも苦しさも職場に捨てて来ぬ一匹狼の主婦とはなりぬ   目に見えぬ心の傷のあまたあり這ひゐづるやうな日々と思ひぬ   家付きの一人娘なりし母家出づることもなく齢九十   退職は我が世の春と信じたり光あふるる街は眩しく   茶道とは作動ならんか神秘のとばり開けて踏み出す一歩   五百年伝言ゲームのごとき教へ茶道家元宗左宗室   自刃せし利休が矜持聞きたきに口やかましき茶の湯の師匠   侘び茶と茶道具拝見と相和して人間臭き侘茶の心   形見分けと賜はりし茶釜に背を押され茶の湯を習ふ決心をする   太古よりずうつと風が吹いてゐたこの涼やかな緑陰の風   六合村小雨 ずうつと小雨続くやう 静かな村だ R

紅葉を訪ねて(草津・志賀)

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紅葉を訪ねて(草津・志賀高原)  週末を利用して、紅葉を訪ねて草津と志賀高原を回った。あいにくの霧雨、視界が悪く幻想的な風景の中を巡ってきた。292号の渋峠では氷雨、地上には微かな積雪も見られ、一足早い雪景色を楽しんだ。冬はもうそこまで来ていることを確信した。 天狗山のプレイゾーンも霧の中 アザミ/きく科 アザマヤマアザミ? 紅葉しやすい木  コシアブラ/うこぎ科 ぶどう科 オオモミジ/むくろじ科 ツルリンドウ/りんどう科 コシアブラの落葉 霧にかすむ草津の森(散歩コース) アキノキリンソウ/きく科 ノコンギク?/きく科 ノハラアザミ/あざみ科 ノイバラ/ばら科 渋峠の雪 渋峠の風景 志賀高原(山ノ内町・山の駅) 志賀高原保護センター 志賀高原の豊かな自然の美しさが展示されている。 志賀高原ロマン美術館 上原木呂妖怪画展というのをポスターで知り、観覧してみた。 身近な生活の道具が「付喪神」と化した様子が何とも楽しい展覧会 河鍋暁斎の『狂斎百図』の一部 『狂斎百図』の展示 歌川国芳 志賀高原紅葉  

こもれび(17)

  こもれび(17)2008-2009 ほ  2008   霜柱踏みつけて遊べる嘴太の横過ぐる時緊張走りぬ   一晩に伸びあがりたる霜柱踏みしだくとき野獣の快感   精神をずたずたにされての攻撃に舌鋒鋭き風の交差点   にがきもの詰め込みしこの身より滲み出すかなマイナスイオン   答案の裏面にさまざまな物語あふるる思ひを書きつけてをり   自己評価低き教師がオール5の生徒評価する矛盾といふや   時刻表改定なりて慣れといふ優しさの中にゐたること実感す   派遣社員一千万人を超ゆるとふ身の置きどころなき社会となりぬ   瓶に挿す鬼百合観念したるごといのち余さずきっちりと咲く   白樫の葉の乗りたるベンチありカミソリのやうな鋭利な木下   月読の影地球に刺さる昼皆既日食辺り一瞬鎮もりにけり   先生が身近でありし昭和の時代新じやが掘つたと呼びに行きたり   六道の地獄畜生飢餓阿修羅変幻自在にこの世に浮かぶ   昔日と変はらぬ声かさざ波が寄するやうなりヒグラシの鳴く   にこやかな表情をせよ金襴の振袖まとふ二十歳の娘   図書館の処分品の中にあるドストエフスキーもスタンダールも   ポポーなる木を選びたる職人の技量めでたし公園の樹種   彩の森公園の中ポポーあり人探すとふポポーありけり   マンゴーとバナナのやうな味がするポポーありけり戦後の食卓   ま  2009   漆黒の闇を背にして降る雪を山の湯宿にしみじみと見つ   新雪に顔付ければ能面のやうなる苦悶刻まれてをり   とまどひも気負ひもまづは内に秘め新学期の準備を始む   ベランダの濯ぎ物空に吹き上げて春の地上は大騒ぎなり   方向の感覚つかめぬ職場なり駅はあちらと指さし違へて   カルガモの雛に異変のなきことを確かめんと寄る朝の公園   イタリアには蝉がゐない石畳からつと明るく乾きてをりぬ   西暦七十九年のポンペイに歩道ありにぎはふらしも   浴場も劇場もはた居酒屋もパン屋もありて市民のくらし   母の腕はみな太くなるミケランジェロの「キリストを抱く聖母マリアも」  

こもれび(16)

こもれび(16)2006-2007  ほ  2006   ミサンガはプレゼント品十代の若者の腕に色濃く巻かれ   通勤の途上に警官立つゆゑに速やかに過ぎん顔取り繕ふ   北からも南からも冬鳥が来て武蔵野はにぎはうらしも   一週間の入院と決め一週間の命の水を花鉢に注ぐ   人生観変わるほどの手術でもなく術後の一夜痛くと痛く   独立行政法人国立病院機構の改革は医師と看護師やさしくさせぬ   アアアアと嘆息ばかりしてゐる鴉元気がないぞ友達がゐない   鼻持ちならぬ職業か不動産業者にしかと言ひあてられつ   契約を結ぶことにためらへど待つてゐては始まらぬ夢   自己評価とふ査定がありて抜き差しならぬ言葉は凶器   二十一世紀未来都市に開花するオールドローズ、マダム・アイザック   あこがれの薔薇の花へと潜りゆくマルハナバチの進化形   薔薇の香のせぬモダンローズ愛されぬ暴君ネロのゐない世に   エッシャーのだまし絵のごときか高きビル数へむとして崩るる気配   へ  2007   一度だつて愛されたことなき記憶いわさきちひろの絵がまぶしい   すぽりとさたうきび畑に包まれて海へと辿るかの白き道   ボムボムボムあまたボムを吊り下げてトックリ木綿爆ぜる如月   あの花は台湾桜またの名はトックリ木綿と優し沖縄   頬赤き少女のごとくひつそりとトックリ木綿咲く那覇の夕暮れ   いつもいつも何かを恐れてゐるやうな不安抱へて生きゐる国ぞ   おづおづとに 庭 ( ウナー ) に座れば三十三体の龍に睨まる 大和人 ( ヤマトンチュー ) は   紅白の区切りに眩惑されて立つ首里城正殿小さき我は   ぬばたまの壕深くゆくただよへる叫びを聞きぬ 神のごときに   受験会場下見にゆきし子が気分悪しと青ざめて帰る   ぎりぎりの所に耐へてゐる受験子に良かれと思ふこともムンク   難癖をつくるが大人と心得て難癖をつくる大人となりぬ   もう怖きものなき娘帰りくるやいなやゲーム機抱へて座る   飛び立ちし風切羽根の美しさカササギの橋渡せる昔   紫禁城に掲げあ