こもれび(16)

こもれび(16)2006-2007 


ほ 2006

 

ミサンガはプレゼント品十代の若者の腕に色濃く巻かれ

 

通勤の途上に警官立つゆゑに速やかに過ぎん顔取り繕ふ

 

北からも南からも冬鳥が来て武蔵野はにぎはうらしも

 

一週間の入院と決め一週間の命の水を花鉢に注ぐ

 

人生観変わるほどの手術でもなく術後の一夜痛くと痛く

 

独立行政法人国立病院機構の改革は医師と看護師やさしくさせぬ

 

アアアアと嘆息ばかりしてゐる鴉元気がないぞ友達がゐない

 

鼻持ちならぬ職業か不動産業者にしかと言ひあてられつ

 

契約を結ぶことにためらへど待つてゐては始まらぬ夢

 

自己評価とふ査定がありて抜き差しならぬ言葉は凶器

 

二十一世紀未来都市に開花するオールドローズ、マダム・アイザック

 

あこがれの薔薇の花へと潜りゆくマルハナバチの進化形

 

薔薇の香のせぬモダンローズ愛されぬ暴君ネロのゐない世に

 

エッシャーのだまし絵のごときか高きビル数へむとして崩るる気配

 

へ 2007

 

一度だつて愛されたことなき記憶いわさきちひろの絵がまぶしい

 

すぽりとさたうきび畑に包まれて海へと辿るかの白き道

 

ボムボムボムあまたボムを吊り下げてトックリ木綿爆ぜる如月

 

あの花は台湾桜またの名はトックリ木綿と優し沖縄

 

頬赤き少女のごとくひつそりとトックリ木綿咲く那覇の夕暮れ

 

いつもいつも何かを恐れてゐるやうな不安抱へて生きゐる国ぞ

 

おづおづとに(ウナー)に座れば三十三体の龍に睨まる大和人(ヤマトンチュー)

 

紅白の区切りに眩惑されて立つ首里城正殿小さき我は

 

ぬばたまの壕深くゆくただよへる叫びを聞きぬ 神のごときに

 

受験会場下見にゆきし子が気分悪しと青ざめて帰る

 

ぎりぎりの所に耐へてゐる受験子に良かれと思ふこともムンク

 

難癖をつくるが大人と心得て難癖をつくる大人となりぬ

 

もう怖きものなき娘帰りくるやいなやゲーム機抱へて座る

 

飛び立ちし風切羽根の美しさカササギの橋渡せる昔

 

紫禁城に掲げある毛沢東画 今年は帽子被りてをらず

 

士卒軍馬みな立ち上がり兵馬俑わらわらと時の旅人

 

空見上げ明日の天気を予測する天安門を吹きなぐる風

 

中国の何処を旅せし父なるか父の土産の硯いまだ新し

 

連休の渋滞情報聞きてゐる取り残されし家族がそこに

 

渋滞の尾灯が続く夜の川幸せさうな家族の記憶

 

新鮮な大根の葉を茹でて切りまぜしご飯ふつくら光る

 

悠久の歴史のやうな叫喚図こぼれし種子が芽吹く六月

 

捨つるにはもつたいなき青トマト空瓶五本を満たしたるジャム

 

パッチワークの美瑛の丘の近未来そよ吹く風が纏はり涼し

 

オホーツクの海に足を浸せばDNAの喜びの声

 

生まれ出でしものの記憶かクリオネ棲むとふ海と繋がる

 

強がりて言ひきるはずが「なんちゃって」照れ隠しの弱気が出る

 

にしき草金の実を吐く吐金草雑草としてあはれ引き抜く

 

ブラインド1/5ばかり上げている向かひの窓へ視線を投げる

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