こもれび(17)
こもれび(17)2008-2009
ほ 2008
霜柱踏みつけて遊べる嘴太の横過ぐる時緊張走りぬ
一晩に伸びあがりたる霜柱踏みしだくとき野獣の快感
精神をずたずたにされての攻撃に舌鋒鋭き風の交差点
にがきもの詰め込みしこの身より滲み出すかなマイナスイオン
答案の裏面にさまざまな物語あふるる思ひを書きつけてをり
自己評価低き教師がオール5の生徒評価する矛盾といふや
時刻表改定なりて慣れといふ優しさの中にゐたること実感す
派遣社員一千万人を超ゆるとふ身の置きどころなき社会となりぬ
瓶に挿す鬼百合観念したるごといのち余さずきっちりと咲く
白樫の葉の乗りたるベンチありカミソリのやうな鋭利な木下
月読の影地球に刺さる昼皆既日食辺り一瞬鎮もりにけり
先生が身近でありし昭和の時代新じやが掘つたと呼びに行きたり
六道の地獄畜生飢餓阿修羅変幻自在にこの世に浮かぶ
昔日と変はらぬ声かさざ波が寄するやうなりヒグラシの鳴く
にこやかな表情をせよ金襴の振袖まとふ二十歳の娘
図書館の処分品の中にあるドストエフスキーもスタンダールも
ポポーなる木を選びたる職人の技量めでたし公園の樹種
彩の森公園の中ポポーあり人探すとふポポーありけり
マンゴーとバナナのやうな味がするポポーありけり戦後の食卓
ま 2009
漆黒の闇を背にして降る雪を山の湯宿にしみじみと見つ
新雪に顔付ければ能面のやうなる苦悶刻まれてをり
とまどひも気負ひもまづは内に秘め新学期の準備を始む
ベランダの濯ぎ物空に吹き上げて春の地上は大騒ぎなり
方向の感覚つかめぬ職場なり駅はあちらと指さし違へて
カルガモの雛に異変のなきことを確かめんと寄る朝の公園
イタリアには蝉がゐない石畳からつと明るく乾きてをりぬ
西暦七十九年のポンペイに歩道ありにぎはふらしも
浴場も劇場もはた居酒屋もパン屋もありて市民のくらし
母の腕はみな太くなるミケランジェロの「キリストを抱く聖母マリアも」
地下鉄も路面電車も乗り継ぎて一ユーロなるミラノ市街地
地中海の白壁の街に光あふれ日本人だけが日傘をさしぬ
都市ごとに現地ガイドを付けねばならぬ古都イタリアの雇用対策
すれ違ひの寂しき夫婦ここにゐてエリザベート皇妃毎日歩く
常温のオレンジジュースが自然の味と感じられるまでのイタリア旅行
この人は歩速合はせず前だけを見てそくそく歩く 遅れたり
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