こもれび(18)
こもれび(18) 2010
み 2010
折り紙もふくだみたる我が手業アイロンがけもどこかがゆがむ
先生などと皮肉たつぷり持ち上げられいい気になつて痛む心は
ヤバイはすばらしいこと注釈を得て若きらと会話がなりぬ
たまさかにしか来ぬ息子伸びきりし時間一瞬に縮めて
道路には白い文字が落ちてゐるふしぎな時間影法師踏む
何もいらず何も望まずとのみ言ひて大正生まれもどかしき母
断念の連続なりしか大正生まれの母何もいらぬとかたくなに言ふ
潜水服を着たやうなもどかしさ「おまへは誰だ」と聞き来る母に
釣り堀にあまたの鱒の影動く釣らるるために元気に生きよ
早く釣れとばかりに釣り堀の主そと近づきてくる初めての釣り
串に刺し塩焼きにされたる鱒うまし秩父武甲に春は来てゐて
食卓にきうりの香り立ち上がり宇宙空間のやうな幻想
精神の在りかは問はず昔日と変はらずと言はれ安堵す心
六道の地獄畜生飢餓阿修羅変幻自在にこの世の人も
私はずつとここにゐたのに不在票事務所より伝言メモが届きぬ
デッキにて飲み干したる赤ワイン 今年限りの同僚とゐて
定年は諦念ならめ 平穏な今こそ退職と心は決めて
退職にいろいろ理由付けたがる小さな不安次々生まれ
窓すれすれに飛びゆく鳩よ何話してゐるのかその空気感
楽しさも苦しさも職場に捨てて来ぬ一匹狼の主婦とはなりぬ
目に見えぬ心の傷のあまたあり這ひゐづるやうな日々と思ひぬ
家付きの一人娘なりし母家出づることもなく齢九十
退職は我が世の春と信じたり光あふるる街は眩しく
茶道とは作動ならんか神秘のとばり開けて踏み出す一歩
五百年伝言ゲームのごとき教へ茶道家元宗左宗室
自刃せし利休が矜持聞きたきに口やかましき茶の湯の師匠
侘び茶と茶道具拝見と相和して人間臭き侘茶の心
形見分けと賜はりし茶釜に背を押され茶の湯を習ふ決心をする
太古よりずうつと風が吹いてゐたこの涼やかな緑陰の風
六合村小雨 ずうつと小雨続くやう 静かな村だR 292ゆく
六十億キロを我が家に帰るごとく戻りし「はやぶさ」お帰りなさい
川口淳一朗JAXA教授七年間娘待つやうに待ちたる男
梅雨時の日本列島涙せり「イトカワ」に往き来し「はやぶさ」
侘茶好き名器収集してをれば自慢の品を見せただらう信長
名品「千鳥香炉」を炷くために名香「蘭奢待」欲しき信長
正倉院御物名香「蘭奢待」一寸八分切り取りし信長
正倉院御物名香「蘭奢待」炷きたるといふ信長茶会
侘茶なるまつさらな世界の入り口に名香「蘭奢待」くゆらすかをり
かつてあばれ川でありし砂川堀橋のたもとに橋供養塔あり
古き家に「ことしやみせん」の看板みゆ落語のごときに微笑み浮かぶ
いざ鎌倉へ新田義貞攻めゆきし後の行き路追ひてぞ歩む
誓詞橋 勢揃橋 白旗塚 二十万の軍勢揃へし新田義貞
新雪をザクザク歩くこの山の赤き目をせる兎出で来よ
足重き夫が先にへこたれぬもつと滑りたいもつと遊びたい
新年に飛び入る蛾あり突然に「お祖父さん」と呼びかけし母
熟睡する子の部屋よりゴミ盗む八時半には出さねばならず
箸使ひ襖の開けたて席入りに理屈はいらずただ美しく
席入りに挙措正されて自縄自縛足がもつれてもつれてしまふ
茶の湯とは男のロマンその昔千利休が茶頭と呼ばれて
一枚板の手に吸ひ付くやうな欅板 昭和の家の上がり框は
小手指ヶ原に新田義貞二十万の兵集めし時の雑兵いかに
新田義貞白旗掲げし白旗塚二十万騎が馳する幻
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