こもれび(28)2020
こもれび(28)
れ 2020
柴刈りのお爺さんをらず保全地の下草刈りのボランティア いざ
初めての下草刈りヘルメット着用すれば人生無敵
陽気なボランティアたち二十名でアズマネザサバリバリ刈りぬ
俯きの柴刈り作業林床のアズマネザサみな刈り取りぬ
くたびれて意識朦朧アズマシノ掴むや否や鎌を引くのみ
不滅なる世界遺産と信じゐし首里城が夜闇に燃へて
複葉機アンリファルマン素通しのいやに細き骨組み晒す
明治四十四年徳川大尉操縦のアンリファルマン牧場を越ゆ
窓多き博物館に複葉機アンリファルマン空ばかり見つ
紅楼夢アンリファルマン久方にこの地に帰り老体晒す
いつしらに裾上げもせぬジーンズあり少し太りし体押し込む
柴刈りの単調さゆゑの女神なり木の葉の間に白き花咲く
冬の日に銀の葉裏輝かせつぷつぷと咲く蔓ぐみの花
落葉の上白き蛾低く飛びゐたり孤独なるかな冬尺蛾とふは
のつそりと息子帰りし三が日少し眩しき若さと思ふ
のつそりと息子いでくる台所胎内くぐりか潜りて入り来
来週はシカゴに出張するといふ食卓きれいに片しゆく子が
平安の受領の息子賭博狂ひ父の戒め聞かま欲しきに
「文選」の「博奕論」引き戒める右京太夫が送る手紙に
賭け事を禁ずる勅命出されしと平安京にも博徒がをりぬ
ゆるやかな雪の起伏のなめらかさ木立の影が長く伸びをり
去年狐ここら辺りで見掛しと思へばぬくし明日は節分
雪上の木立の影はむら濃なり偏屈一人いぶされてをり
山宿の出湯に映る白樺の影さへ愛し 朝湯につかる
闇を裂き光一筋が上りゆく今何もかも受け入るるべし
厳冬の山にこだます冬花火白銀の街を深く眠らす
颯爽と滑るならねど白銀を滑ればこの爽快感よし
白銀の木立を抜けて滑走す雪の女王いづこにゐます
ぷちぷちの梱包材をも楽しめり縦に横に斜めに雨降る
から風強き日なり 梅宮神社のどぶろく祭りと ふと母が言ひしよ
何やかや留守の事など頼みたる娘が巣立つ桜の時に
衣服のみ運びゆきたりかにかくに巣立ちはかくも呆気なく来る
若草の二人で決めしマンションが仮の住まいとともかく飛翔
無頓着に踏みつけられしタンポポが小さく咲くもまた踏まれたり
嘴太鴉がそろりそろりと近寄り来 自転車の籠にふと乗りにけり
油断せり友に貰ひし栗饅頭鴉に狙はれ食はれてしまふ
いつまでも鴉に食はれし栗饅頭思ひ起こせば悔しきものを
軽妙にかけられし言葉受け止めえず次第に心重くなりゆく
今年の出来良きキャベツよ紋白蝶もここに生まれてあまた飛びゐる
不揃ひに伸びたる柘植を掬ふやう時分の花と刈り込みにけり
ゆるキャラの威を借る時間「トコろん」の三頭身の体で歩く
「トコろん」所沢市のイメージキャラクター
人気者「トコろん」脱ぎて空身なり いつもの寂しい私が歩く
つつがなく生活するらし呼べばすっぴんのままに帰りくる娘
絵のやうな幸せ掴めと願ひをり子の平凡はひそかな落胆
薄皮をむきてマリネとすミニトマト卓に艶良き宝石となる
古希なりとクリームたつぷり苺ケーキその寂しさを見てゐる私
子育てと仕事に悩みし日々があり短かつたといへるのか 古希
ふうはりと尾を立て冊に止まりたる今日の尾長は優雅であるよ
水のなき所沢台地に田螺なし 稲田すくよかな川越の道
三方領地替えも御沙汰止み 異をとなへしは庄内の民
図書館になき本探しに文学館へバスに乗車は久しぶりなり
閲覧は一時間のみ密を避けコロナ禍の利用はなかなかである
ジャム瓶にカスピ海ヨーグルト詰められて手から手へ友から我に
つややかな長寿の村のヨーグルトはかなき夢を託されにけり
我に育てられるかヨーグルト 兎にも角にも農協牛乳注ぎてをきぬ
木々の枝揉みあふ如し戒めもなく朝湯につかる 小原庄助
朝もやの煙る海峡 モネの絵かなにかのやうな優しき日の出
見下ろせば輝く海峡壇ノ浦 安徳帝沈みゆく海
タンカーがコンテナ船が釣り船がひねもす通過す早鞆の瀬戸
白村江戦に敗れし古代あり思ひを馳せて水城に立ちぬ
無意識に痒い所を掻いてゐる戦場にてはいかにしたるか
汗する仕事なきがにテレワーク推奨されて不思議の国に
埼玉から出でることなき七十年胸張らむにも何かがつかふ
端正な広き庭も白壁も旧家の誇りを見て歩きたり
コロナ禍の鬱払はむと歩き来て風の野を行く大六天まで
時計なき時計台には激動の昭和を語る物語あり
静かに威容を放つ白き蔵 大正ロマンに銘仙ありき
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