こもれび(27) 2019

 こもれび(27)


る 2019

 

そこはかとなく昭和の匂ひしてスーパー「もくべえ」草津に寄りぬ

 

山桃は身の丈半分に切り詰められ庭木に秋の光は届く

 

山桃の木下に溜りし落葉はも搔き集められすつきりとする

 

海底下二千メートルの石炭層に二千万年前の嫌気菌生く

 

記念艦三笠の展示映像に心痛しよ死する人あれば

 

あなにやし平成美女も三十歳IT企業の戦士となりて

 

あなにやしえをとこが妻娶るしきたりなかなかうるさきものよ

 

出世魚といふ魚あり我が息子姓を変ふるも悪くはなきか

 

のどやかな挙式でありしがただ寂し髪長姫に寄り添ふ息子

 

四海波静かにあれとこそ思ふ抱き重りする花束を受け

 

私だけではないこの苦悩「ムンクの叫び」見つつ思ひぬ

 

人垣に遮られて見えざれどまづ楽の音が近づきてきぬ

 

栄光をたたふパレード近づきぬ勝者の誉存分に浴びて

 

きわきわと狐(じゃ)れ合雪原を疾駆して来るに出会ひたり

 

狐は狐の世界で生きてゐる追ひ掛け合ふは恋の始まり

 

草津の森狐と出会ひし興奮を持ちてネイチャーセンターに行く

 

この森のここで出会ひし興奮を宝物として散歩を続く

 

可憐なるオオイヌフグリ咲きゐれば春の小川まばゆく光る

 

土埃舞ふ日でなくてよかつたよ畑道を行く三富新田

 

十五人の雛人形が押し入れにをると思へば息苦しかり

 

押し入れの中半分は雛の箱さればと言ひて断捨離できず

 

お雛様の箱を開ければ贈りくれし母の笑顔もぱつと浮かびぬ

 

留め金の伸びてゐるもの押し込みて七段飾りの段のアナログ

 

帰り来し娘()()に触れもせずいつものやうにパソコン始む

 

寒き日を座禅草咲くとバスに来てささくれだてる木道に立つ

 

紫の仏焔苞の肉穂花序腹這ひ写す座禅僧見る

 

ザゼンサウ撮りし余韻か足軽ろし浅間山巓に夕日輝く

 

塀よりも高き幹に登りゐるやんちゃが見えてハラハラドキドキ

 

九十分並び並びてパンダ舎にやうやく至れば笹たべてをり

 

先ほどのやんちゃはと聞けば力力(りーりー)なり五メートルも木登りしたか

 

外つ国の鸚鵡さへ上野にはをり花の構図もきらびやかなり

 

葦原醜男の荒々しさもて花にゐる鸚鵡も(ひよ)も花弁散らす

 

妥協せしと娘が言へば白鳥も王子もゐない寂しさに

 

やうやくに芽ぐみほぐる黒文字の花の恵みを撮るは優しく

 

入念に拭き掃除せり寂しくも妥協の人を迎へる準備

 

人は誰も寂しきものなり共に生きてゆけるなら受け入るるのみ

 

箱有りてどなたもどうぞ根茎のダリアの花咲く未来が詰まる

 

赤きダリア咲く夏ぞ来むいただきし根茎動き出す春

 

百枚の花弁広ぐるダリアたちその忠誠を嫌ふ日もある

 

六地蔵様が揃つて交通事故想定外も大概にせよ

 

改めて事故の様子を想像す石段有りていかなる車

 

卜全の脚本あまた寄贈さる段ボール箱に昭和が詰まる

 

人類が平和でありますやうに祈る卜全の達筆の文字

 

「老人と子供のポルカ」覚えてる卜全の口角の震えも

 

ひらひらと睦合ひつつきたる蝶この花止まれ今日の被写体

 

何故に金魚は死にしか七月の(あした)その身を静かに浮かべ

 

口きかぬ金魚に異変あり異変あるままゆかしめて悔ゆ

 

金魚の風邪薬とふものありや庭の根方に埋めし金魚たち

 

ほろほろと昭和平成生き来ても手負ひの傷は深まるばかり

 

もつと知的な仕事に就いたらと親切なアドバイスさへトラウマとなる

 

働くは汗することと思ひをり友のアドバイスは心外である

 

夜の闇に紛れて帰り来たる時羽化終へし蝉青白くあり

 

蝉声と耳鳴りとが共演すともに激しく競り合ふを聞く

 

人工六万余りの五所川原湧き出づるがに立佞武多来る

 

灯の点れば輝かしき立佞武多熱き路傍の石となり見る

 

秋田藩お殿様は金魚好き金魚ねぶたが開館飾る

 

恐竜の時代の化石樹銀杏の実あまたがこぼれ木下に転げる

 

支柱に止まらんとしてホバリング赤蜻蛉に慎重派をり

 

ただならぬこのまつすぐな遊歩道歩き始めて違和感生ず

 

まつすぐなただまつすぐな遊歩道まつすぐすぎて落ち着かぬここ

 

遊歩道沿ひには種種の草花が私を見てと美を歌ひをり

 

猛獣の母子のやうに追ひたてて曖昧模糊の娘の結婚

 

傍らに娘がゐてパソコンの不具合もすぐ見てもらひたり

 

パソコンの処理に困れば頼れるは娘そばにをりたればこそ

 

狭山湖の湖底に沈みし勝楽寺静かな湖面にカモ類の声

 

まぼろしの王辰爾山勝楽寺渡来の歴史秘めをるままに

 

その昔(かつ)()織りあり大坊あり見下ろす湖面に春風ぞ吹く

 

宮廷に王辰爾をり幾百の百済人ゐて大和は動く

 

狭山湖の周遊道路行き行きけどどこまでも無人勝楽寺の村

 

開拓の褒賞として山茱萸の三本の苗木下されし吉保

 

吉保が褒美に取らせし山茱萸(さんしゅゆ)苗庄屋晴れ晴れ植ゑにけらずや

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