こもれび(7)

 こもれび(7)

 秋の到来を告げる金木犀の香りが豊かである。よい季節になった。太陽のもとではまだまだ暑さが厳しいが、吹く風は心地よい風を運んでくれる。太陽をいっぱい浴びて、いつまでも戸外に居たいと思う。まだまだ紫外線が強いのだろう。

 先日、女性の過剰と思われるほどの日焼け防止に努める様子が気になった。美白はあこがれであるが、全身を布で覆い、帽子を深々と被り、手袋をして……どうしてそんなに日焼けを恐れるのだろう。

せ 1988

 

平和なる時と思へりベランダに布団干されてふくるる真昼

 

安易なる判断一つ咎められまたも虚しき繕ひをなす

 

疲れたる頭に抗ふ言葉なし人のそしりを背に受けて聞く

 

息詰めて時計盗み見 六時までに終はらむ会議か長々続く

 

六時過ぎ駆け込みたるに責むるなき笑顔の迎へ救われにけり

 

何もかも長き影引く入つ日に生徒が三人並んで帰る

 

新雪のまばゆきに立つきりきりと北の寒さが肌を刺し来る

 

学童保育の灯を守らんと百枚のビラ配布すと寒き道に立つ

 

己が鍵にドアあくる音寂しからむ子が真先に帰りくる家

 

登校の息子を送りに出でざればお母さんと呼び立てて出づ

 

修善寺に保里布団店とふ看板ありいかなる人が住むかと思ふ

 

世の動き人の動きと関係なく子と熟れ落ちし桜桃拾ふ

 

消しゴムを使ひし跡も残りゐて母の日の作文ありがたきなり

 

身重なることかまひてはをれずよ 保育園へ迎へに急ぐ

 

先に走りゆきて見つけた曼殊沙華燃ゆるごときに歓声をあぐ

 

不器用に仕事を続くる杜撰さも苦しさも胎児受け止めてゐむ

 

木犀の香れる日より高飛車に物言う人の影は膨らむ

 

不確かな世に生まれくる子を待ちて白く小さき産着揃へる

 

そ 1989

 

嬰児の目元口元笑まふさへ生まれしものの不思議にうたる

 

これからは山にも登らん暁光のごときが閃く産声高し

 

梅の咲くときに宮参りいいですねとにこやかな婦人に寿がれたる

 

抱きあげん我をベッドに待つ嬰児は花のごとくに笑みて応ふる

 

腕の子は髪そよそよと吹かれゐて気持ちよげなり眼細めゐて

 

眩しげに景色見ている嬰児よ白きがナズナ黄がイヌナズナ

 

恥ずかしき過去に触るるを恐れゐつ赤き椿の落ちている庭

 

威勢良き八百屋に代金手渡せり消費税などここでは言はず

 

小さき虫が跳ぬるごときに足元の紫けまんの実弾けて飛びぬ

 

扶養控除されたしと宣言できなくて職場復帰の日が近づきぬ

 

清らかに我を見つむる吾子の目あり預けんとする心が痛し

 

朝もやに入江かすめり白き陽がじわつと熱を放ち始むる

 

幼子と穏しく遊ぶと見ゆるらし母なれば寂しき心潜める

 

乳房が青筋立ててふくれゐる預けたる吾子に飲ませんものを

 

乳欲りて子は泣きをらん我が乳房青筋立てて満ちゐるものを

 

保育ママの昼も食べずに泣き続けしとふ子を迎へればけらけら笑ふ

 

柔らかき幼の感触思ひをり職場に悔しきことありて耐ふ

 

乳房のみなぎりくる感じなくなりて職場に馴れて昼餉を食べる

 

幼子は我が膝につかまり立たんとすこの微かなる感触優し


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