こもれび(6)
こもれび(6)
庭の曼殊沙華が咲き始めた。今年は適度に雨が降ったので、たくさんの花芽が出てきた。楽しみである。また、秋の味覚の栗も収穫期を迎えた。
し 1986
朝日さす鉄路に生ふる曼殊沙華ふりしを今朝は揺らして過ぎる
突然にびんずいと思ふ逆光にさへづる細きシルエット見つ
霧覆ふ湖面に漕ぎいれし貸しボート波紋のみが岸辺を洗ふ
楽し気に雀囀り日の出づる方を向きてぞ電線に鳴く
子供らの膝に乗りくる感触を思ひて夕べ帰宅を急ぐ
三十五歳若くはなくてまた一つ隔たる生徒ら眩しく見ゆる
梅の花咲き出ださんか里の庭広しと子は走り回らむ
昼頃より粉雪降り初む水疱瘡になりたる吾子を里に預け来て
中空に四方へ飛び散る花火あり 恐ろしとしがみつき来る吾子は
中空に花火の弾づる音のして落下傘静かに闇に消えゆく
弟の分まで拾へと命じたる落下傘持ち長の子は来る
花のとき終へて箒に重き程吹きだまりゐる花柄の桜
帰りゆく児童の列に付きゆけば別るる児らは無言に離る
眠くても先に寝ないでと子に言はれ絵本読みやる眼よ閉づな
微かなる風が触れくる優しさかもちの花白く降りかかりくる
舗道の暑き反射を受けながら息子がプールより帰り来る頃
ブランコに揺られて遊ぶ子の額蚊に刺されあり夏日も揺るる
母親の働く是非を問われおり小学校クラスの役員決めに
虫の音を聞く宿題を果たしおり学童クラブより一緒に帰る
幼子の背よりも高き里芋の葉を仮面となして遊ぶ父と孫
す 1987
解熱剤飲みて遠足にゆきし息子を時折思ふ空を見上げて
人並みに学びてをらんか聞かむと思ふ不器用なる子ゆゑの不安
逆光に羽虫が白く浮遊せり日輪淡く夕湿りをり
華やかに舞台で演じゐたる人目立たぬ姿に足早に去る
観劇の余韻を引きつつ立つ舗道夜の灯りが寂しく光る
公孫樹の葉散り積もりたる木下道振り向きざまの夕日に押さる
高原の空藍深し宇宙より飛び込む電波がありと思へる
青き空にパラボナアンテナきりりと立ち宇宙へと目を凝らしゐるなり
雪降れば除雪車のまねなどして遊ぶ幼きものの学び見てをり
我が動きのろしと見つるか 塀の上座りし猫の目動くらむ
軒下の植ゑ込みに咲くクロッカス黄のひだまりに猫が寝てゐる
我が背中滑り台とたはぶれて幼の小さき背押し付け来
動くものに石投げ当たるか試したる五歳の我の善悪を恥ず
皆勤賞を戴きし息子これもまた才能なりありがたきなり
苺色に染め極まれる夕日みる疑ひのなき今日が過ぎゆく
家庭持つ女は苦し中座せし後の会議に決められたこと
面白くなきとふ顔のあからさま 鏡より目を離さぬ女生徒
半眼のまなこの流れが気になりぬ大仏様はどこ見られるや
今日一日よく干せし布団の匂ひあり主婦なる我の一人の時間
先生もむかつくことがあるのかと生徒に聞かれし言葉貼りつく
電車ごつこに一日遊べば四歳の吾子と同じき時間の流れ
百日紅風に揺れつつ花満てり烏揚羽のふはりと止まる
木下にて欅を映すにはたづみさざ波白く寄せてゆく見ゆ
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