こもれび(3)

 こもれび(3)

 昨日は9月9日。奇数の重なったおめでたい日、重陽の節句、菊の節句、今年最後のお節句だと思ったら、もう今年も終わりのような何か物悲しい気持ちになってしまった。そして今夜は三日月。金星も近くに出ているというので、早く見ることにしよう……


か 1980

 

不都合を手落ちと言はんか我が立場庇はむとして悪あがきせり


座りたる途端にぐるっと動く胎児不安になりてしばしさすれり

 

凩の雨戸を揺する音すなりストーブの火の揺らめくを見る

 

生まれくる吾子の襁褓干す軒に恥ぢらふほどの白さ輝く

 

植物の生命力が話題となる雪消は根のめぐりより始まる

 

梅が香の匂ふがごとき明るさよ生まれくる子を待ちてをりけり

 

ざらざらと舌に感触あるものを無性に食べたし煎餅齧る

 

叩かれて太き声にて泣きはじむ産声は強しかすれ声にて

 

助産婦は坊ちゃんですと微笑めり労わる声にうなづきしかな

 

乳欲りて泣きたる嬰児涙溜めひたすら飲みぬ黒き目開き

 

我が陰の小さくなりし春日なかオオイヌノフグリ咲く野辺の明るさ

 

庭の菜は種となりをり河原鶸茎にとまるや啄みてゐる

 

宮参りせめて祝はむ母として二人分の赤飯を炊く

 

寝不足の目こそばゆく起き立ちて授乳せりけり 白々と朝

 

一日のぬくもり残る敷石に座りて吾子と夕べを待ちぬ

 

訪へばあまたの野菜持たせくるる母の心をそつと受け取む

 

ベビーカーに幼はご機嫌手足振りすれ違いざまにこにことせり

 

生まれくる命極まるひと時に涙関あぐ我無垢にして

 

き 1981

 

夫と我と首を並べて不安なり新生児吾子連れて帰りぬ

 

たまきはる命なりけり薄明に吾子の授乳をせむと抱きたり

 

お座りし積み木を握る幼き背屈みこみゆく丸くなりゆく

 

ぐずる吾子負ぶひて歩く寒の宵人の円居が玻璃越しに見ゆ

 

吾子のため職をやめよと母が言ふ可愛くなきか かわいいお前

 

二時を過ぎ寝付かれぬまま起き出でて遊び始めぬ玩具振る音

 

支え立ちしては身をよす吾子とゐて育児休業終わる日近し

 

ベビーカーの幼は素早く手足振り近づく電車を見送ることせり

 

保育園に泣きしとふ子も今は馴れ振り返らずに抱かれて入る

 

そこはかとなき温もり感じつつ職場を出でぬ雨あがりの午後

 

育児より気楽なりやと復帰して太りたるを言へば笑はる

 

職場出で帰宅するまでに考ふる今宵の献立舌なじむもの

 

襁褓せず素早く逃ぐる満一歳になりたる幼逃ぐるが楽しく

 

夜泣きする幼を抱え苦しかり昼は剽軽に保母を笑はすと

 

チゴユリの未だ咲かざる竹やぶに筍見ると幼と歩む

 

低空を飛び行くヘリを這ひ這ひて追ひかけし吾子草の匂ひす

 

産休の明けて歩める通勤路旗竿がらし今年も咲けり

 

青嵐五階の窓より見つめをり地上はすべて輝くごとし

 

早苗田の広ごる車窓住み良からむ青々としたる田に風の吹きとおる見ゆ

 

汀辺に吾子の付けたる足跡を波が追ひつつ消してゆくなり

 

保育園に預くる吾子もい寝をらむ電車にもたれ寝ぬる子を見つ

 


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