こもれび(29)

こもれび(29) 


ろ  2021

深海に生きる命の心地にて訳も分からぬ自粛の疲れ

 

カーテンもクッションも洗ひ壁白く輝けばみつる秋の心は

 

壇ノ浦海キラキラと輝きてここに都あるべしと 波

 

天離かる鄙ともいへぬ大宰府に旅人も憶良も都を恋す

 

玄界灘その先青しかの地より帰り来たりて都を目指す

 

秋津島稲田広ごるさきに見ゆ 渡来人多く渡り来し島

 

今登らねばと焦る気持ちに登りたる信州志賀山上州赤城山

 

足腰の弱るを恐れ登る山登れば天上に磐座ありき

 

中地さん空のいづこにいませるや葉書を手に空を見上げぬ

 

中地さんの選歌に甘えて二十年心のすきを突かれて訃報

 

姉妹みな元気なるが当たり前 疑はざりしに姉病むと

 

手入れ良き庭木の緑見てをりぬ姉の心を受け止めるべく

 

帰り来てまた旅に出る「はやぶさ」ヤマトタケルのやうなり 切なし

 

モニターを見上げて涙する男 六年の歳月忘れしやうに

 

一本の火球となりて戻り越し「はやぶさ2」の玉手箱1つ

 

風もなくパラパラ落つる団栗を山の熊さんに届けたき秋

 

真つ直ぐな足跡は狐ニコニコと歩くは狸 きれいに歩く

 

小さきは小さき足跡しみじみと月夜の晩の孤独見てゆく

 

時は人が編み出せしものせかせかと実にせかせかと正月が来る

 

お赤飯炊くも久にて赤飯の匂ひ厨にみちあふれ来ぬ

 

宮参りの算段付ければ母さんが言ふからといふ雲行きになる

 

黒き()見つめられゐて見つめ返す 嬰児を抱く

 

天神様この子よろしく紅白の梅の花咲く良き日よき所

 

PCの行書文字をなぞりてぞ御初穂料と小さく書きぬ

 

嬰児の大人しきはつまらなし(しか)め欠伸にさへ喜びが湧く

 

樵のごとく枝打ち払ひ片付ける一歩一歩をなさねばならぬ

 

この人もジェンダーフリー受けとめて枝打つことの楽しさを言ふ

 

新しき道ができれば古き道とぎれとぎれとなりて迷ひぬ

 

如月を彩る花となりにたり我が町にも河津桜咲く

 

風船のごとく脹らむ河津町風にたゆたふ桜道ゆく

 

一本の原木から育ちたる河津桜に騒ぐこころ持つ

 

自給率どこまで下がるコロナ禍にワクチン一つ作られぬまま

 

自意識の先端尖りゐしところへし折られてシュンとなりたり

 

図書館にレンジの如き箱ありて除菌する時紫光る

 

(くさめ)せる声も大きい息子なりぶらりきてテレワークすると

 

テレワークにて何が出来るかいぶかしむ 昭和の時間に生きてをれば

 

(ルート)292冬季封鎖は解除され深々と雪の回廊

 

青空と屹立する回廊 山の気と湧き立つ白さに挟まれて立つ

 

こそばゆきもの降りくる森の中エダシャク青虫目前に降る

 

外敵より逃れむとして蜘蛛の()につかまり下がれるエダシャク虫が

 

ひとつ葉のサイハイラン咲くを見る森の貴重種貴重価値

 

一つ葉の采配蘭と小躍りすピンクの総状花序が見えて

 

モンシロテフの井戸端会議か地に帆を立ててゐる不思議を見つる

 

コロナ禍にアマビエとふ妖怪出でぬ日本の妖怪愛らしく生く

 

恐竜のゐた時代の生き証人 結晶片岩地上に出でをり

 

三国志思ひ描きて見てをりぬ結晶片岩秩父赤壁を

 

アマゾンの勇者となりて立ちたまへテレワークすると籠る若者

 

物取ると立ち上がりたればアナログなアイデア一つ転がり出でぬ

 

夕べには電灯一つ点すのみ昭和の暮らしに不足ありしや

 

根菜がスポッと抜けるやう軽々と身に嬰児を抱く

 

スマホせずラインせぬ我の連絡網空白のままつながる世界

 

弟を苛めるなと弟の肩を持ちたる一度ならずも

 

弟の肩持つと不満だつたらういまだ娶らぬ長子悲しむ

 

我が耳に痛き程なる蝉声が家の軒まで下りてくる夏

 

にいにい蝉初鳴きならむ講演のみどりの中に蝉声を聞く

 

葦笛がトロンボーンとなるまでの世界史を聞く語り楽しく

 

まつすぐな人の語りは示唆に富む葦笛から笙の笛まで

 

こもれびに紛れて咲けるマヤランを踏むところだつたと気づく足元

 

菌寄生植物マヤランをつくばひてみる淡く切なく

 

気にかけてゐたのかレンゲショウマ咲くとスマホ手に庭に出で来たる人

 

淡雪の花弁ポロリと落ちたれば長き茎のみ残る寂しさ

 

御岳山登りはケーブルカーでゆくレンゲショウマ咲くところまで

 

大神も天狗も住まふ御岳山御師(おし)の村にレンゲショウマ咲く

 

森の持つ重たき時間ひたすらに巨樹多くならぶ参道下る

 

網目麒麟ならぬ羊蹄メロン五つ箱に納まり宅配で来ぬ

 

マスクメロンは網目がきれい阿弥陀様拝むやうに手に取りて見つ

 

食べ頃は八月十五日係累にこの喜びを分かつメロンの力

 

栗の実が稔りたると持てゆけば菜園の菜を取りてくださる

 

存外に物々交換豊かなり古代の暮らしが見えてゐるなり

 

栗の実を拾ひ尽くさむ われ縄文の女と思ひ拾ふことせり

 

国民は蟄居せよとふ宣言に慶喜公の鬚面が見ゆ

コメント

このブログの人気の投稿

5月の植物図鑑

所沢市出身の三上(高川)文筌 3 

6月の植物図鑑