こもれび(25)

こもれび(25) 


ら 2017

妻子めこどもが世界を統べらば戦争は起らまじとむのたけじ言ひぬ

 

反戦を訴へ続けしむのたけじ百一歳は反骨に死す

 

戦争法阻止せむと立ちしむのたけじ若き力の足らざるや今

 

ドレミファ橋渡りし先は高麗峠いろはもみぢのいろはが滲む

 

高句麗は滅びたりけり千三百年王家の歴史高麗郷にある

 

高麗の郷騎射競技会馬上にはりりしき若者髪長姫も

 

ラスコーの洞窟の闇に向ひたるクロマニヨン人白人なりき

 

暗き洞馬は嘶き黒き牛ありありと立つラスコー壁画

 

真闇にて保存されゐしラスコーの壁画の馬が首振るが見ゆ

 

新人のクロマニヨン人長身の美男美女とその子供たち

 

洗濯機のゴミ取りネット引つ張つても押してもだめだ取り出せぬ

 

パソコンに検索すれば図解入りゴミ取りネットの外し方あり

 

ダイヤモンド富士が見ゆると聞きつけて来たる冬至の東久留米駅

 

これからは冬至の日には来てみむかダイヤモンド富士輝く眩し

 

八ッ場ダム作る作らぬ騒動の無かりしごとく削らるる谷

 

久々にバスの旅なり冬畑に達磨五つが吊るされたる見ゆ

 

あれは何と思へどバスは過ぎゆきて達磨五つは遠ざかりけり

 

あれの意味悩み悩みて町役場に問ひ合はせをり どんど焼きとふ

 

入所者の作品過剰に飾らるる良かれと思ふ感覚恐ろし

 

満艦飾に飾らるる作品過剰過重 とも思はぬ感覚怖し

 

節分の豆まき行事見むと来し氏子ならざる我にも給へ

 

今や遅しと豆の撒かるる時を待つはやる心を抑へてしばし

 

八方へ撒かるる豆をキャッチできぬ小さき豆がすり抜けて落つ

 

いきいきと金正男氏あらはれぬ数分後の運命知らず

 

青空にきりつと一基のマーライオン北緯一度の夕暮れ迫る

 

退職の人を見送る春の宵永遠の別れかもしれぬなり

 

髪を切り今日の鬱を払はむよ玉虫色のバッグを手にす

 

新緑の今日の光の中をゆく今日にしかない今日の喜び

 

真っ直ぐな女の視線にひるむなりアルフォンス・ミュシャスラブ叙事詩に

 

二十枚のスラブ叙事詩に描かるる千年の途方もなき戦

 

ざくざくとゴジラのごとく大胆に霜柱踏む今日の残酷

 

不都合は隠蔽せんとする国だからソウル領事館前の少女像

 

天明の浅間噴火にてポンペイのごとく埋もれたる鎌原の村

 

鎌原の観音堂の階下に取り残されてその母負ぶふ骨

 

日本の製本技術に支へられ「はらぺこあおむし」食べ進みゆく

 

自然に生くるもの逞しくさらに美し「はらぺこあおむし」

 

蝶になる青虫だから菜園に青菜を食ぶる事を許す

 

ルイ・ビトン邦人初の購入者板垣退助一八八三年のパリ

 

後藤象二郎ルイ・ビトン板垣より三週間遅く購入す

 

ヒロシマの市民の描いた原爆展無間地獄に静けさが満つ

 

会場の重き空気に負けまじと哀しみの数だけ折鶴を折る

 

日傘さし登校しゆく女高生雪のやうに白き肌せり

 

小麦色の肌美しき女高生今や貴重種絶滅危惧種

 

立ち位置はここと示されここに立てばアルチンボルドの戯絵になりぬ

 

アルチンボルド野菜絵戯絵お気に入り私は茄子とカボチャとトマト

 

白蝶草と覚えをりしが白鳥草と書きし人あり迷ひが生ず

 

松明草と調べし我に漁火草と言ふ人の有り対抗心ちらり

 

ちつぽけな対抗心などつまらぬと思ひつつ小さな違ひ気にする

 

めだかの子生まれたからといただきぬメダカ二〇匹ついつい泳ぐ

 

ついついとメダカは泳ぐ胸の透く思ひにしばし見つめて飽かず

 

小麦粉にマヨネーズ入れて衣とすかかる工夫に今日の充実

 

お神楽を奉納するとふ鎮守の森神ならぬ身もつられ見に行く

 

北陸の能登七尾城謙信が十三夜の月愛でし所と

 

ひたすらにコスモス咲きて明るければとつてんからりん能登路を行きぬ

 

キーピングすればよ飛散せぬすすきこの一本のこの造形美

 

逆さまに名札を入れてトンテンカン皆で笑ひ分かち合ふ秋

 

 

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