こもれび(24)

 こもれび(24)


よ 2016

 

珍しき仏手柑(ぶしゅかん)とふをいただきぬはるかな記憶呼び覚ます形

 

蜜柑とも柚子とも知れぬ不可思議な慈愛に満ちて仏手柑はあり

 

み仏の(および)を持てる仏手柑新玉の年の飾りとむよ

 

金柑が庭になりしと杖付きて九十歳の小窪さん来る

 

杖付きて小窪さん捥ぎたらむ金柑の実から光こぼるる

 

九十歳の小窪さんの金柑を焦がさぬやうに優しく煮つる

 

明日まで生きてゐたらと言ひ直し九十歳のミヨさんの約束

 

約束を違へずミヨさん持てきたる杖を突きつつ千両の苗

 

男はみな戦争に行き十代のミヨさん電車の運転手たる

 

つつつーと走りて止まるツグミたち あ!だるまさんが転んだしてる

 

枯芝を走るツグミの早きこと「だるまさんが」で止まれるもをり

 

雉鳩がくぐもる声に鳴き出づる青葉若葉の季節嬉しき

 

五月まだ雪の中なるシベリアの上空飛行機(ひき)は薄明に越ゆ

 

壮麗なシェーンブルン宮殿十六人の子を産み育てしマリヤ・テレジヤ

 

幼子とくつろぐと見ゆる肖像画幸せさうなマリア・テレジア

 

十二時には十二人の使徒が出づウイーンの街のからくり時計

 

華麗なるハプスブルク家の宮殿よ世界遺産の栄光ここに

 

都美術館二時間待ちなる若冲展猛暑なればに風よ吹き来よ

 

雄鶏の赤き鶏冠若冲に睨まれてをりたじたじとなる

 

一千万人がダウンロードをしたるらしポケモン探しの旅に出発

 

一晩にポケモン四匹捕まえぬいかなる仕組み家にもをりて

 

東京都美術館ポンピドゥー展 レストランにてポケモンゲット

 

人多きところに多く出るといふポケモン探して上野を歩く

 

八咫烏棲むとふ熊野の神域に樹齢千年の(なぎ)の木が立つ

 

中辺路の辺路とは何の意拘れば本宮大社に謎解くかぎは

 

ま幸くと浜松が枝を引き結ぶ有間皇子は還らざりけり

 

時を超え磐代王子を拝みぬ斬首されたる有間皇子を

 

梛の木は神の木ここに千年の平和を願ひ立つと聞く

 

ゆつくりと右に左に鈴を打つどの鈴も鳴る神の鈴

 

幼き日見たる神楽の三番叟鈴の音ゆつくりゆつくりと打つ

 

神楽殿に篝火たかれ酔眼に(これ)(もち)見たる鬼女あらはれぬ

 

美女と鬼女面を瞬時に替へる技心のひだを見つるは哀し

 

紅葉狩り鬼女が何で悪であらう二心みな持つらむに

 

異端者を生みたる社会竜笛が鬼女の心を追ひつめてゆく

 

変化(へんげ)にもあはざりしゆゑ見つつゆく近くのもみぢ遠くのもみぢ

 

ふところの深きやさしさ緑陰は今も昔も枝葉広げて

 

木の上の小鳥の声はなめらかなり屈託もなく鳴きかはす声

 

三時花こんなに小さな花なのに蜆蝶止まるぴたりと止まる

 

街路這ふ電線の影にも入りたし烈風炎天に曝さるる身は

 

表には緊急自転車駐輪場と書かれあり古き医院の入口

 

昨日まで大切だった家毀す感情持たぬ重機が動く

 

ズシーンと重き音せり耳痛しかくまでたやすく家は壊さる

 

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