こもれび(22)

こもれび(22)


や 2014

 

ホームの母如何にしてをられるにやこんこんと青空いづみ

 

紀伊国屋文左衛門が千両にて買ひたるごとしみかんの旨し

 

十文字に飛行機雲は交はりて衝突の予感抑へ難しも

 

六月の森は小鳥を閉じ込めてきらきら輝く三光鳥の声

 

公園を蝉声占拠す鋭き鵯の声さへかき消されをり

 

ぢぢぢぢぢ断末魔の声幼鳥か逃げんとせる蝉追ひつめたるらし

 

みちのくの勿来の関を我は越ゆきびすを返す人多きなか

 

足元の一木一草に夏があり二十数基の恋絡み合ふ

 

除染すと青き袋に詰められて土嚢は置かる公園の隅

 

中学生数人ずつで歩き来る風船爆弾跡地に出会ふ

 

原爆ドームオブジェのやうに眺めをりあの日あの時を呼吸しながら

 

めくるめくやうな日なり広島のあの日あの時曇天であつたなら

 

茶畑の上の青空が深きゆゑ連れ立ちて来ぬ葭子資料室

 

縫物に一日がつぶれる無念さを詠ふ葭子の貧しき暮らし

 

縫物にわづかな収入得たる日の葭子の安堵阿佐緒は知らず

 

一本の栗の実りに感謝せり季節の栗をおすそ分けする

 

我が娘虫だ虫だと大騒ぎ何かと見ればコオロギ一匹

 

団子虫を掌にのせ遊びゐたること忘れてふためく娘

 

骨折をせぬやうになど老婆心払拭したる白銀の尾根

 

三十年を幾たび来て滑りをり眼下の湯の街懐かしく見ゆ

 

兎にも出会はず白銀の中へ中へと滑りゆく時間忘れて

 

おほもみぢいろはもみぢも色づくよ曖昧模糊の我がゆく小道

 

姿勢よく自信たつぷりに歩きゆく厚きコートに首を埋めて

 

水準器片手に額飾りゆく曲がつたことの大嫌ひな人

 

エプロンが制服らしエプロンを好まねばずり落ちる肩紐

 

姿勢よき猫が耳立てゐるごとしすらりと優しき水仙の花

 

雪かきに痛めた腰は湿布薬三枚貼りて様子見とする

 

草取りに気分良好チューリップ欠伸する見ゆ赤白黄色

 

さりげなく庭に植えられ風つかむシマトネリコのほど良き緑

 

男爵とふ名前の由来知らねども男爵先生日本史語る

 

初雁城霧隠れ城の異名持つ河越城こそ幻の城

 

河越城河越太郎の(さと)(ひめ)は義経正妻 忘るるなかれと

 

義経の舅なればに攻められて河越太郎誅殺されつ

 

川越の女子高生なれば川越の歴史を学べと男爵先生言ひぬ

 

川越に七不思議あることなどを語りし男爵先生今いづこに

 

沖縄はレンタカーの島「わ」ナンバーが前後左右を走りゆく

 

埋め立てらるる前の海を眺めたくて辺野古の海に来て立ちをり

 

潮の香と静かな波を覚えてをかむ辺野古の浜ジュゴンの海を

 

ジュゴン棲む海を守らむ水色の布に描かれしジュゴンが空を飛ぶ

 

ジュゴン棲む海ありやんばるの森をこれ以上傷つくるな 人

 

うらやましと言はれし一言楔なりその羨ましさは何だつたのだらう

 

下を向く蓮華升麻をひざまづき写真に撮りぬポスターも撮る

 

緑陰に蓮華升麻咲き上る律儀な夏を見つけ出したり

 

ラムネ売る屋台の列に並びをり崩るやうな影法師背に

 

ビー玉を上下させつつ飲むラムネこれがラムネか絡まる甘み

 

いつまでも末つ子なりき父を母を看取ることなく逝かしめぬ

 

帰り来て清めの塩を振りたれば亡き母の顔寂しげに見ゆ

 

色合ひの美しき蝶ミソハギの花に止まるこの世の花に

 

母亡くば実家に集ふこともなし長姉言ひぬふるさとも失す

 

ことあれば姉に頼りし我なれど七七忌もて里遠くなる

 

母の齢九四歳にたつた三日足らざりしこと口々に惜しむ

  


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