こもれび(15)

こもれび(15) 2004-2005

 

ほ 2004

 

父なければ父に似し顔母なければ母に似し顔市中に見つく

 

しんねりと秋の日は暮れ鉦叩きこの世の浄土に鉦叩くなり

  

狂牛病鳥インフルエンザと処分さる数限りなき命の重み

 

思ひ出のすべての心の傷になる「ハンカチを噛むピカソの女」

 

いつのまにみんな去つてしまつたのだらう気が付けば今先頭に立つ

 

転勤が決まり仕事をはづれゆく残務整理とふ仕事のために

 

それぞれの人間関係片寄せて転勤惜しみ寿ぎにけり

 

冬ざれの野に白鶺鴒降り立ちてバネのごとき体が走る

 

じゃれかかる子猫二匹を引き連れて野良猫クロの生きてゆく当て

 

毎日がナマケモノのやうに生く冷蔵庫より物取り出して

 

「少しやせたね」とすれ違ひざまの声のして職場に君の笑顔いただく

 

寅年生まれ故に懐かし虎祭り毘沙門天はお堂ににらむ

 

逆さまに祈らねば叶はぬ願ひごとややこしきかな身代はりの寅

 

森に住むかの如くにて蝉しぐれ競ひ合ふなり小手指の家

 

コロボックルが棲むやうな森 ホロホロの魂抜けるやうに葉が落つるなり

 

へ 2005

 

青鷺がすくと一羽立ちてゐるその静かなる無限の時間

 

暖冬といへど紅葉する公園のナンキンハゼは白き実を吐く

 

白菜人参牛蒡蓮根和の食材がわあんと占める歳末の店

 

たれ目なるコンコン様と親しまれ三囲神社の墨東きつね

 

平穏さに堪へられぬなどとふ身勝手さ 年の数だけ福豆を食ふ

 

鬼やらひ恥づかしとふ娘なり小さき声に福を呼びをり

 

混沌としたる時間か通勤の途上の出来事覚へてをらず

 

理想ばかり追ふ男の背中みて現実ばかりわが身が担ふ

 

何に反抗してゐるのか何にむかむかしてゐるのか分からぬ指先

 

公園の自由猫に声をかく変な人間にはかかはらじとさ

 

厚化粧すればするほど醜き少女反感のごとく厚塗りをして

 

心をば家霊よりひきはがしたり新幹線早く 西へ走れ

 

神苑の白鹿の仕業か霙さえ降り来るなり比叡山延暦寺

 

千年も人に踏まれたことのなきやうに優しくふつくら苔の庭

 

はなびらはダンスを踊る地に立ちて地上くるくるまはりて遊ぶ

 

駅からの途中のビルに消えてゆく男の職場検非違使庁か

 

施設よき体育館にてバドミントンさはへ呑み込み悪きは昔から

 

良き物の目利きなりしよ国宝重文多く残して信長家康

 

こんなにも伸び伸び大きくなるものかモンスターなる金木犀咲く

 

金木犀ドーナツのやうに花を敷き沈黙すらん一年の間を

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