こもれび(14)
こもれび(14) 2002-2003
ふ 2002
人権のありし世なれば苦力として売られず唐人の墓
でいごの花ブーゲンビリア咲く島に寒波来りて寒き旅人
だいわうやし数本生ゆる王家の庭に饗応されしは島津か清か
三年も雨降らずとふアフガンへ降る弾丸が雨でありせば
ヤブレガサ二三センチがほど伸びて指さす人があそこにもゐる
記憶から昨日をさと消してオレンジ一果をむさぼりにけり
もう百か日経つたらうか兄思ひの父の呟き思ひだしたり
さりさりと落ち葉の音に包まれて父のゐない日百か日すぐ
マングローブの森に広ごるヒルギ林気根板根水際に出づ
石垣島の鴉は小さしヤーヤーと低きに翔びて可愛げもあり
阿吽の呼吸併せて一対のシーサー屋根に守りゐる家
だいわうやし鳳凰木さりげなく王家の庭に育ちてゐるも
世の中を斜に構へてサディストとなりゆくか春はめぐりて
机間巡視は物拾ふため消しゴム鉛筆紙屑なども
泥団子の光度競ふことなどをネットで知りぬ子もつくりをり
早春の話題より先に蒲公英はロゼッタの中に小さく開花す
日ごとに写真の中の父が若返る生あるものの混沌よそに
幾重にも重ね着したる筍の無垢でやさしき命を盗む
風邪もひかず女は強しと言ふ男家事を引き受けてくれますか
蒲公英のひよろりと伸びて初夏の風拾ひ集めて父の一周忌
部屋内に紛れ込みたる天道虫逃がさねば苦し一つ命なり
離婚でもしなければ片付かない問題を今日まで触れずに来たり
安物はダメと言ふ人と安物が本命の我と折り合ひつかず
心まで齧ってしまひし兎など抱きたくはなし元気になれよ
犬を飼ふ家族明るし父も母もスニーカー履き待機してゐる
病なる兎の足裏押してゐるもう青空なんてどうでもよくて
カゼインの匂ひ微かに立たしめて風になりたる兎のうらら
コンピューターから打ち出されしままの成績表十代の通行手形を渡す
色紙のごとくきらめき渋滞の車彩る山坂の道
山の気と川の気と触れ合ふ所天上に咲く曼殊沙華あり
生産者じり貧にして日本は安全といふ神風吹くか
呪縛から解かれぬままのジェンダーを抱へくらげのやうに生きる
ととき葉と母の呼びし葉知らざれど「ととき薬局」この森にあり
へ 2003
首里城の朱の回廊に怖ぢし子が閻魔大王の結界に入る
三十三体の龍がひそかに棲むといふ首里城正殿綺羅重々し
なめらかなトックリヤシの並木道触つてみたいふくらみの艶
夕焼けをバイオレットスカイとのたまへるAETのやさしき顔が
テロ組織アルカイダは残存しそれでも飛び立つ旅客機幾千
うすずみに残照やまぬ基地の灯よテロリストらが活動始む
車ひしめく車道を横切りてにんげんが生きたいやうに生きてゐる国
人通り多き道の真ん中に身を投げ出してタイの犬ゐる
メナムとは川といふ意味チャオプラヤ川を船にて渡る
チャオプラヤ川渡る風のやうなりタイ式マッサージ少年の笑み
スクランブル発信せよと一斉に歩き出したり信号短き国に
楽し気にみんな揺られて見下ろせり象の背に乗り高きに驚く
先生はケンジの母ちゃんかただそれだけが知りたくて来たる子
分散の大箱小箱パンドラの箱の如し雛道具揃ふ
十三人も召し抱へゐるお雛様いよよ華やぐ七段飾り
あかねさす阿耨多羅三藐三菩提地下街より人あふれくる見ゆ
シュレッダーよりあふれくる反故紙の山無能なる我のものなる
「のらくろ」はどんな顔だつたパンジーが我に話しかけくる
いかなる神の仕業か駅前にずらり並びし候補者の顔
ご栄転などと虚飾を挟みたる送別の辞を受けたまはれる
平凡な一日の初め通勤の電車にいつもの時間に乗りて
辛き事慙愧慙愧と重ねゆき慚愧輝く眩しすぎる太陽
核の傘求むる国の竹やぶに父の掘りたる防空壕あり
熱々のグラタン皿で火傷せり考え事をしていた指先
いつよりか時折姿見する猫クロと呼ばれジジと呼ばれて
百万回生きた猫かないつよりかクロと呼ばれジジと呼ばれて
信号を渡る人々に日の射して異界への入り口あらむ
東西南北何処にもある戦跡を歴史といふや殺戮の跡
紅白の曼殊沙華なり数多して天使のまつげきゆんと伸ばして
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