こもれび(13)
こもれび(13) 2000-2001
は 2000
真夏日に切り詰められしまま鈴懸は晩秋の今みどりを伸ばす
尖りたる結晶のまま降り来る雪よさらさら岩原の雪
ゆきだるま造りたき吾子とさらさらの雪を丸めむ崩れゆく雪
眩しすぎる雪嶺を目に冷気いつぱい胸に収めて滑りゆく幸
人出多く出づるフェスタの会場に読まぬチラシを手にしてをりぬ
篠原に小鳥潜めりひりひりとささなく声はいづこと聞きぬ
穏やかな川面に春日煌めきて鶺鴒渡るせせらぎのなか
ブルートレイン北斗星に見る夜の底雪原続く十三湖みゆ
窓かけを上げて見たる十三湖月夜の電柱さびしげに立つ
函館山の大パノラマ 凍てつける夜景こそ身をそぐ魔の山
桜咲き連翹躑躅と咲き次げる韓の国の春美しきなり
譲られし意外さを表情にあらはして白髪の人席に座れり
冬ざれのポプラの木に巣がありてあれはカサササギと慶州の人
「奥様つて誰のこと」アマノジャクな我いぶかしむ呼称のひとつ
雨の朝落ち傘カバーにつまづきぬ今日一日の不幸の始まり
小六のはらぺこ娘帰り来て「苔のムース」は美味しいのかと
兎とて痛きはずなき 毛をむしり産褥となす己が白き毛を
一夜にてみすぼらしきうららなり産褥とはゆめ知らざりき
目も開かず真裸にして兎の子ふはふはの母の毛に包まれてをり
いつの日か野辺に遊ばせたき兎なり野原の草を引きて帰りぬ
目的なく夏終はらせじ一週間のサマーキャンプに娘を出だす
一人とて知る人なきを不安がる娘を押し出だすはやる心に
常凡は常凡にして小六の娘キャンプに出だし帰る日数ふ
物置に大小十個のボールありうち忘れたるそれぞれの夏
童顔をあらはによくぞ集ひたる同窓会の笑顔はじけて
自死事故病死謎の事故同窓の死者数へて一割故人 (50歳の同窓会)
労働を期待されし団塊世代田植え茶摘み休みありけり
無ければなきで済ませしものを真夜明かくコンビニあれば買ひにゆくなり
大輪に咲きたる向日葵一刀に切り捨てしはいづこのやから
ひ 2001
何気なく肩に置きくる娘の手払ひて背丈伸びしと思ふ
厨にて俯むく体薄暗き鬱なる心晴るる日ありや
寒しとふ寒の寒さに小走りに汗したたらせ職場へ向かふ
ディズニーの入場料は高きなり些末な考へいつしかわする
ミッキーもミニーも笑顔振り撒きてこの世の幸せパレードの笑み
大根のかつら剥きも簡単とふ口上につられ皮むき器買ふ
油断ならぬ人間として飼ひ兎の赤き目に見つめられをり
病院に呼ばるる名前だれもどこかで聞きしやうに懐かしく
事務的な食事の介護と父嘆く ああ我は優しくはなし
ちちのみの父は何を言はむとす華麗なるかなぼた雪が降る
平日のマクドナルドは保育園さながら母と子でにぎはひぬ
飼育係の娘小学校を卒業す別れがたき兎がをりぬ
中学の制服身に着けたれば登校の列に加はらず行く
点滴に命生かされてゐる父よ雨だれとなり流れゆくのか
五感まだ生きてかなしき瞑目しひたすらに苦しき息をする父
一週間見ぬ間にやせし父の目に光宿りて見つめられたり
小動物を水攻めにして何のうさ晴らし小さき記事に心が痛む
バスを待つ間もどかしく停留所三つ歩きて来たるバスに乗る
包丁の音弾ませてふるさとののっぺらばうは胡瓜もみにす
我が娘出掛くる時におじぎ草ざくと触れてみな眠らせつ
勉強が嫌ひで学校は楽しいといふ茶髪ピアスに救はれてゐる
風船蔓の白き小花に来て吸へるしじみ蝶ありかすかにふるへ
草むらに風韻ありてゑのころ草ふるふる震え夢を語らむ
いぶかしと見る間にビルは倒壊すゆるぎなきもの一機が崩す
満月の夜には化けるかもしれず水クラゲ揺れてあさきゆめみし
白きページ残さぬやうに使ひ切り生きて穏しく父は逝きたり
白布に覆はれ苦しくなきものか昨日のごとく立ちたまえ父
男孫六人うち揃ひ通夜の席父喜びて車座にゐん
滂沱たる姉に功徳あれちちのみのちちの御命見届けたるに
ざんざんの土砂降りだつた父の葬りみそかすに涙似合はず
鬼ごつこしてゐるやうに柔らかき百日紅の花がすべりだす
見張りする我の裏をかき裏をかき脱兎の兎隣家の庭に
行儀よく前足揃へゐる兎家族の中で一番やさし
暗闇にみみづくの眼の丸きこと鳥類図鑑そこより開く
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