こもれび(12)

 こもれび(12)1998-1999


ね 1998

 

水際より曼殊沙華は咲きあがりくたれたる所あるも寂しく

 

道端にコスモスが咲き菊が咲くそれのみで潤ふ秋の一日

 

悪戯つ子悪戯するやうに雲が日を次々閉して秋は翳りぬ

 

一夜にてがらりと変はることの一つ今朝は輝く朝日が眩し

 

スキーリフトの一日の終はり山々に蛍の光が吸ひ込まれゆく

 

雪無くて氷塊のやうなゲレンデ がりがりと足に響けり

 

足跡のくつきり残る雪の上狐か狸か山の獣出でよ

 

快晴にも衣類乾燥機がらがらいはせ機械稼働すたまゆらの家事

 

階段を降りたくなくて登りゆく幼き抵抗に笑ふべきかな

 

花粉症にいらいらするとふ不機嫌を形に表し落ち着かぬ人

 

我が狭量の極みなり苛立てば人に当たりて人の目おそる

 

我が家の食事の貧しさ露はとし子の工作は展示されをり

 

春なれば飼ひモルモットあこがれて隣家へ逃れ草食みにけり

 

苦しとも言はず死なしめしモルモット理解不足に取返しがつかぬ

 

顎の下毛を濡らしたるモルモット歯の伸びすぎと思ひ及ばず

 

市民には事知らされぬ恐れあり爆音上げて迷彩機飛ぶ

 

背の順に取りゆく食事はいつも最後二等兵たりし父の不満は

 

笑ふと痛むと胸をそとおさへベッドの上に花のごとく笑む

 

将来のことなどベッドに語りゐて少女まりあは難病に臥す

 

青年の足音軽やかに階下る無限の時を恐れて生きよ

 

川原石に渦巻く銀河フズリナの化石混じれり永遠に流れて

 

の 1999

 

秋晴れの玄界灘をひとつ飛び日本列島隈なく秋晴れ

 

被爆者の生涯をかけ語るらむ核廃絶は遠き道のり

 

レントゲンに映らぬ骨が増ゆるとふ被爆者語る被爆が続く

 

私の方があきらめし物多きはず夕べ嘆ける夫の背に思ふ

 

目白来て細枝に揺れてゐたりしが羽音鋭くいづこへか去る

 

わがままを言ひあふやうに立つ公孫樹小学校の庭を囲みて

 

薄墨に沈みゆくグランド サッカーボール追ふ子らもそろそろお終ひ

 

新玉の年の初めを言祝ぎて勝手に騒ぐテレビうるさし

 

音符のやうな八つ手の花が散り敷きて春の光はそこにのみ来つ

 

静かなる部屋なきことを言ひたてて逃げる夫を我は悲しむ

 

ばつ悪く知人に出会ひし日曜日下らない自我小さくしまふ

 

この世にもまだ不明なることがある国籍不明機不明船など

 

世紀末と恐れをりし七の月あくせくとす術なかりけり

 

急須にて五つ茶碗に注ぎ分くつつがなき日々思ひ出しをり

 

健康に働く老いを呆けといふああ寒々と言葉は走る

 

相続税の対象としか見ぬ土地か大鷹が棲みコダマが棲みぬ

 

朝六時ベランダに来て槇の実を食べんと鵯のうちつくる音

 

槇の実の片実落として花托のみ食ぶる鵯の敲く音高し

 

みちのくの旅路の果ての岬道マリーゴールド黄の花盛り

 

赤ちゃんが一人増えたるごときにてわくわくとせり兎が来る

 

浅知恵と悪意と諧謔におらぶ日々夢より冷めて苦しき

 

私が正直者の顔をして気に食はぬとふあなた何者

 

物として扱はれたいベタベタと悲しむ生など持ち合はせない

 


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