こもれび(11)
こもれび(11)1996-1997
に 1996
槇の実を啄みきてベランダに打ちつくる鵯だるまさんの実
我が町の公園の池に咲かせんか不忍の池の蓮の実を採る
蓮の実を採りてひそかに目論見ぬ公園の池蓮池となれ
舞ひ上がる水でありたし噴水といふ高きより下りくる水
ガラス窓に映る初日を拝みぬ人の家の向かうに出でこし
幸せかと口には出さぬ父親が福寿草の芽を掘り取りくれぬ
上着替え定期券を忘れたりこの単純さがやるせなき日に
ダイビングするごとく小鳥飛び立ちぬ人見つむるを疑ひもせず
転任と決まりしゆゑに捨てられぬ物きれいさつぱり捨てつ
我が形跡残さぬやうに机上机下拭き清めて記憶を消しぬ
存在の感じられぬ日当たり障りなく職場に時を過ごせり
転勤の職場はゼロより始まらん刷新の時間ゆるりと持たむ
武蔵野の雑木林の続きにて河原鶸コロコロ鳴きゆく
雨降れば草木が可憐露繁く遠田の緑僅かに育つ
五月雨に煙る広野に緑色少しづつ異なる稲田が見ゆる
涼やかな風鈴草なりカンパニュラ咲く新しき職場への道
口きかぬものの世話をまづせよと父の教えよモルモット見る
勤めより帰り来たる勢ひに作る夕餉も仕事の一つ
数多なる葛藤もあらん赴任地の似たる顔もつ職場を歩む
緩やかな時のながれる時計草働けることに感謝して出づ
学校に怪談ありやと問ふ生徒らに怪談めきしを作りて語る
転勤の我に過ぎたる大きさかそつと手を置き椅子に座れり
書き散らす文字が机上に踊りをり白日の下に感情さらす
ぬ 1997
前田家の旧別邸とふ鎌倉文学館海も見へてむ文士集ふとき
托鉢の帰りならむか建長寺僧のたくましきわらじ履く足
酸性の雨に腐食する御身とふ鎌倉仏に氷雨ふりをり
巻き毛なるコアラの背に手を回す抱きつきてくるコアラも我に
若夏の光さはやかな十二月シドニーにてコアラを抱きぬ
色黒きオーストラリアの大蝸牛つのに触れなば柔らに縮む
南十字星逆オリオンの輝きに宮沢賢治に出会ひたる夜
ジャンボ機の窓下に見ゆるちぎれ雲洋上はるかを飛びてゆくらむ
純白の粉雪の吹き上ぐるゲレンデを覚悟を決めて滑り下りたり
初級中級コース数本滑走し解かりたる心地す雪のゲレンデ
凍てつきし風が吹き来る伊東港寒き生簀に海鼠覗けり
海鼠など需要ありとも思ほへずころころとしたもの生簀に数多
道草の子らの見つけし桑の実を共有拒む小鳥が騒ぐ
洗ひ桶につかりしままの食器たちすべてのものが朝のまま待つ
夫のゐて子のゐて果てぬ寂しさぞ一足す一が二にはならねば
四十台の諦めとして我が誕生日ケーキ買ひきて夫子に振る舞ふ
揚羽二羽睦合ひつついつまでもまつはりをりて音せぬ世界
我一人使ふ机上の綿埃言ひ訳できずこの怠慢を
定刻に出づるを優先娘の涙見のごして来ぬ寂しからむよ
家にあらば避けがたき家事育児なり這ひづるごとき思ひにて駆く
不愛想な我が中学生ワープロの技もて頼みの文書作りぬ
どんよりと曇りたる空見上げをりこの均衡を破るものほし
今日一日曇りなること告げている山鳩の声ででぽぽ寂し
眼前より矩形に伸びゆく田圃道のどかなれど迷ひやすき道
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