こもれび(10)
こもれび(10)
と 1994
回遊魚鋼鉄製かと見紛ひぬきらりと光りて踵を返す
目交ひを回遊しゆく鮪の群れオーケストラの楽章となる
武蔵野線すすきの原にすつぽりと埋もれて走る三郷のあたり
予定の日は速やかに来ぬ 秋の団栗転がりし朝
三線がどこか寂しく響きをり琉球舞踊に華やぐ紅型
今帰仁城の石垣の辺に蘇鉄ありその実を食べし歴史を思ふ
砲弾に崩れし石垣積み上げて復元なりし首里城の燦
沖縄戦に隠れたりとふ洞あまたごつごつとして足元暗し
自堕落に繁るは薄と思ひしに砂糖黍とぞ一面の黍
青首大根は地面はるかに伸びあがり寒くはなきか北風に吹かれをり
猫の子のごとく抱かれぬ泥水に足を踏み入れし娘救はれて
平成の米騒動と識者いふ冷夏の夏過ぎて小一時間並びぬ
小綬鶏の甲高き声疲れてか遅くなりゆくと子が聞きなしをして
人の世のままにならぬは我ゆゑか予定外にて日曜は過ぐ
駅頭に托鉢僧が念じをり目を伏せて人の流れの中ゆく
幼きが折りたる金魚風鈴のリンに繋がれ中空泳ぐ
大洗を大笑ひと聞き違ふ子と海水浴の支度にかかる
はげ頭に日焼け止めクリーム塗るものか パラソルの下隣人を見る
百日紅散りて軽きを掃きよする千々に乱るるこころが憎し
な 1995
泡虫の泡かきとりて見するなり中に黒き泡虫がゐる
会議とて今日もゆくらし気づかざる夫と駅にすれ違ひたる
受験校決めねばならぬ子と歩む丁字路多き川越の町
豆電球の飾られてゐる並木道冬なればいよよ高く輝く
落ち込みし時の幸ひ幼子を膝にのせて遊びやるなり
三人子の卒園までの十四年長くもあり短くもありぬ
十センチ以上伸びしか高一生 柱の傷はグーンと伸びて
足つかぬ椅子に座れる幼子のあどけなさを不安に思ふ
止まりたる時計の代り 娘の時計ピンクの耳が華やぎ光る
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