こもれび(5)
こもれび(5)
散歩をしていると、木に絡まって白いこんもりとした花が咲いている。十字形のきれいな花だ。「コボタンズル」である。「ボタンズル」と似た花だが、葉のつき方が違うらしい。
牧野植物図鑑によると「コボタンズル」 は関東の山地に生えるつる植物。「ボタンズル」は日当たりのよい山地や原野に生えるつる植物で葉の構成が、二回三出複葉と三出複葉との違い。散歩をしながらこれからは葉のつき方にも気を付けて観察してみようと思う。
こ 1984
夕日さす町見下ろしぬ木犀の香りかすかに尾花を照らす
立たむとて転ぶや否や泣き立つる幼の負ひし苦痛は如何な
ひとしきり泣きゐし幼眠りたり仄かに白み朝刊が来る
五階より俯瞰するなり葉の落ちしメタセコイヤが細き影引く
幕のうち並びゐるらし三歳児吾子の元気な声が漏れ来る
三姉妹久に会ひたり厨なる母の傍へに自づ集ひて
我読書夫の飲みたき珈琲を淹れに立たむか測りつつ読む
子も寝ねて気ままに読書むさぼれば何に触りし夫の不機嫌
休日の家に籠りて午後四時を持て余したり厨に立たん
扇のやう欅の梢梳らるごとくに北風に大きくなびく
起き抜けに夫出勤すとどのつまりは保育園に我が子を送る
休まんか夫と確執ありしのち熱高き幼目に涙たむ
主婦我の帰宅遅れぬ確実に子らは飢ゑゐて家中すさぶ
拳もて何をしづめしか戦きて夫の怒りに耐えてをりけり
明日の準備せねばと思ふ添ひ臥せば子より早く寝付きにけらし
上の子の悲しき目にてたぢろぎぬ母我もまた孤独に怯ゆ
春の夜の闇にひかれて寄り合へどすれ違いゆくこころ寂しく
喨喨と長閑にラッパ聞こえ来る基地近き駅に立ちて聞きをり
泥濘を歩むがごとし基地にては今もラッパに時を知らせて
延び来る飛行機雲が途絶えたり不穏を抱え動悸し見上ぐ
戸外にて賑はふ見れば子燕の低く羽搏き親燕めぐる
長雨に飽きし幼と散歩せり木々のしずくがリズムもて散る
考へをまとめんとするに座す椅子が不安定なりうちばかり見つ
さざ波は触れたきほどの光沢を持ちて寄せくるあさまだき海
午前海 午後は昼寝と自づから決まりゆくなりキャンプの日課
日常に帰るべくテント畳みをれば子らは玩具を車中に運ぶ
西伊豆に海紅豆咲く御寺あり 人が行き交ふ施餓鬼盆らし
力にて生徒抑ふると批判しつつ力無き事切実にして
さ 1985
玩具持ち寝ぬる吾子の幼さを留め置きたし寝顔涼しく
我が膝にゐる子の髪の感触を直く思ひつ絵本読みをり
片しても片しても玩具あふれくる子の遊びは予想がつかぬ
ブロックを積みては壊す子の遊び我が家事をするごとき営み
やつれたる主婦見かけしとふ人もをり晦日に越して行きにける人
七草には七草なけれど粥として淡く食べをり行事食なり
全自動洗濯機掛け止まるまで真夜わずかに読書の時間
得意げに三輪車もてつきてくる子 こもれび求め公園にゆく
我が膝に汚れを知らぬ幼ゐて屈託もなく手足動かす
色紙に息子の作りし雛飾り色うつくしく飾りて置かな
雄たけびて広間を揺らす秩父太鼓 勇猛果敢熱く打ちつく
万作か土佐水木なるか近寄りぬ雪の御寺にさやけき黄色
初木姫神社の由来記読みをれば幼きは水舎に水掛けあへり
幼とも我とも距離を置ける夫子泣けばうるさしと罵りきたり
飛行機の音するたびにしがみつく何故の恐怖か幼きを抱く
語り合ふ努力を怠る日々なりき幼と臥して疲れて寝ぬる
菜園に熟せし苺小さきも酸ゆきも幼は争ひて食ぶ
サラ金に追はれ空き家となれるらし居酒屋になると改築始まる
ダンゴ虫レースをすると五歳児ら集まりてをり発想楽しく
潔く積雲浮かぶ夏空よ解放されたき思ひ抱へつ
丁寧な口調に話しかけてくる箒にてボール打ちしてゐたる生徒が
乾隆帝二五歳の肖像画細面にて頼りなくみゆ
我のみが泳げず岸に残さるる日も来んか子と浜に遊べる
浮き袋使ひ恐れず泳ぐ吾子天真の笑み持ちて追ひくる
おちこちに花火を囲む家族をり土肥の浜ベに提灯点る
坑道は百キロといふ土肥金山の坑口より寒き風吹く
掘削師選鉱師はた彫金師数多の魂一枚の金
パステル調の帆が風をはらみサーファーは青き海のうろこの如し
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