所沢市出身の三ヶ島葭子7

(その7)
「少女号」の歌と物語
「少女号」には歌物語もあり、みずみずしく暖かい作品が掲載されている。「雛壇のまへー人形によする歌ー」十首と短文は大正12年(1923)3月号に掲載されている。

  雛壇のまへ
   ー人形によする歌ー
             三ヶ島葭子

 「まあちゃんははもう、九つにもなったのだから、お人形さんなんかほしくないでせうね。」
 お母さまがさうおつしやつたので、まり子さんはつひ、「ええ、」と、お返事をしました。
 「それではこれは、おとなりの赤ちやんにあげませう。」
と、お土産のつつみの中から、笑ひながらお母さまがお出しになつたのは、まり子さんがこれまで見たこともなかったやうな美しいお人形さんでした。まり子さんはもう、何も言はないで、そのお人形さんをだつこしてしまひました。
 「まり子、それはおとなりの赤ちやんにあげるのだから持つてはいけないよ」
と、お祖父さまがおつしやつても、まり子さんは聞えぬ様子。
 「あら、私にもだつこさせてよ。」
 十四歳にもなるお姉さまが、本気になつておつしやるのでした。

何といふ名をばつけまし何といふ名をばつけまし此人形に
あきらめてほんのしばらく姉さまに貸てあげたる私の人形
学校へ我ゆくとき人形はさびしく箱の中にゐるなり
門もありお二階もあり縁側にかざりてあそぶ人形の家
雪の日を炬燵にあたるひまもなしわが人形の帽子あみつつ
つつましくすわりゐるかな雛さまにお仲間入りの私の人形
雛壇の前に床しき雛の顔人形の顔みながらねむる
愛らしきすみれの花の咲きゐるを見れば目に浮かぶ私の人形
母さまのお帰りをまつ夕ぐれは人形抱きて唄をうたふも
いつとなく匂ひそめたる夕月を見てゐるごとし人形の眼も
                         「少女おもひで草」より
                   (漢字にはすべてルビが振られているが省略した)

 これは実際にあった場面かもしれない。近所の赤ちゃんのために葭子が買った人形を娘のみなみが気に入ってしまい自分のものにしてしまう。そんなに喜ばれた人形だったのだ。
 娘の成長を願いながら、病気がちな母に甘えることの少ない娘をほほえみながら見つめている。

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