こもれび(21)

 こもれび(21) 

も 2013

 

白き物白く輝くベランダにおのもおのもにふくるる影法師

 

仕事とふカクレミノ持たざれば食事のみに一日が終はる

 

天花粉キカラスウリより採取する牧野植物図鑑の博識

 

嘴太が朝羽を振りて飛んで行く雪の朝きりりとしまる

 

あ蜥蜴 青白き尻尾跳ねてをり我が罪科なるちぎれし尻尾

 

畑起こし無我夢中にせるを悔ゆ蜥蜴の尻尾跳ねてゐる今

 

鳴きだせる笛吹ケトルの寂寥感何を置きても救出にゆく

 

良き物がたやすく買へるこの時代買へぬものあり間引き菜の味

 

品揃へ豊かなる町のスーパーに間引き菜どこにも売りてはをらず

 

間引きせし牛蒡を葉ごと天婦羅にほど良き香り口中にしむ

 

収穫せしもろもろを手に帰りゆく我が間引き菜は今宵食彩

 

梅雨時の余白を埋めてゆくやうに雑草が生ゆ若菜が伸びる

 

初飛行のころが花だつた一九〇三年切り絵のやうな複葉機

 

フランスに買ひ求めたる複葉機徳川大尉三分飛んだ

 

牛小屋の上を飛びし複葉機牛が見上げて晶子見上げて

 

花の下に挙手の礼などすることのないやう祈るゼロ戦展示

 

土地に深き記憶の有りて名を遺す白旗塚誓詞が橋と

 

恋ヶ窪から分倍河原へいざやいざ鎌倉の旅のはじめは八キロあまり

 

輓馬にや水飲ませたる鎌倉井戸覗きゐるときハンガーが降る

 

営巣をしてゐるらしも音に聞くワイヤーハンガー一つ落下す

 

ゆつくりと昼餉を取りてゐる間形勢不穏黒雲出づる

 

激しく雨降り出だせば雑兵ども辛くも逃げてマンション軒下

 

川の流れは時の流れ分倍河原に源平の武者が攻める馳せるあり

 

高氏が六波羅探題落とせりと知りて続々寝返りの兵

 

一夜にて寝返り多きと知る北条(ほう)泰家(じょう)陣は崩れて敗走す

 

北条泰家逃がすために奮死す横溝八郎阿保入道

 

討ち死にの侍の塚七百年民は守りぬ躑躅咲く家

 

我が見舞ひ取るに足らずよ 兄嫁の見舞ひでなきを寂しむ母は

 

一銭も手元にあらぬを不安がるケアホームに入所の母は

 

迎へ来るやうに電話をしてくれと母に頼まる家恋ふる母

 

跡取り娘なりし母九十年住みたる家よりホームに移さる

 

手拭きなどたたむ仕事を割り振らる意にかなはぬ作業であるらし

 

できることするはリハビリと思へどもやらさるると愚痴る母

 

プライバシーなきに等しき生活を母に押し付け見舞ひにゆくも

 

看護介助の手厚きことを理由とし家に帰りたき母をいましむ

 

相模の国遊行寺まで来たりけりいざ鎌倉へ十キロ余り

 

新田軍たどり着きしは土砂降りの泥土のなかと『私本太平記』

 

遊行寺に大銀杏あり帰りゆく生徒ら等しく一顧の礼す

 

いざやいざ相模の国の戦ひに頼朝救ひしは飯田家義

 

寿永二年義仲軍と対戦す相模の俣野景久討ち死にす

 

木下道あなやの茶色噴出物 狐の茶袋にしてやられたり

 

雨風に腐食の進むと危ぶまる大仏様はおやつれなるや

 

鎌倉の森を背にさる涼やかさ大仏様は半眼に座す

 

荒海に「つるぎ投ぜし古戦場」とはここなり稲村ヶ崎

 

何故に母の機嫌を損じたる取り皿に卵残して帰りたる

 

新春の癸巳(みずのとみ)(とし)見下ろしてセスナ機はいづくまでゆくらむ

 

ただじつと座りゐること多ければ歩かせにゆくホームの母を

 

一人来て耳遠き母の繰り言を聞きて手を引くどこか寂しい

 

まつすぐな視線向け来る栗毛なり弱点ばかりの心見すかさる

 

恐る恐る手を出すものにも撫でられて忍耐強き栗毛の馬は

 

ああまたも様にならぬか我が乗馬天馬に跨る心地にゐるが

 

北海道の大地を駆けるはずだつた体験乗馬はたつたの二キロ

 

三回も乗馬センターに通ひしに北海道駆くるは二キロのみ

 

いやいやをするやうに今砕かれて流氷ゆつくり覆る見ゆ

 

アルキメディアンスクリューをもて流氷に立ち向かふガリンコ号

 

はちす葉の如き流氷さまざまな形をなして深き色せる

 

流氷の下に棲むとふクリオネを間氷のまに探してをりぬ

 

青き空と光り輝く流氷とふたわけにするエンジンの音

 

一匹のキタキツネ出づ雪中をゆく孤独びんびん伝わり来

 

鶴居村丹頂の郷約束のやうに渡辺とめさんはゐた

 

丹頂に餌やりつづくる渡辺とめ九三歳の小さな体

 

毛糸の帽子マスク姿の渡辺とめさん長靴を履いた猫のやうなり

 

雪原に嘴上げて鳴きかはす写真の外にはとめさんがゐる

 

とめさんが餌付けを始めて半世紀雪原に今丹頂数百

 

急須にて湯飲み茶碗に茶を注ぐ家族五人が揃ひし日には

 

ティーバッグにおのもおのもに茶を淹るるその簡便は悪くはないが

 

合歓の木の奥処の藪にひつそりと半夏生咲く見て来しところ

 

ゆりの樹は私はここよと言ふやうに枝葉の下に迎へくれたる

 

フローリングに腹這となり瞑目す自由猫の夏の気ままに

 

影武者となりて鎌倉へ急ぐなり鎌倉街道古道探して

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