所沢市出身の三ヶ島葭子5

(その5)
歌碑に刻まれた葭子の歌

1 所沢市内 中氷川神社歌碑

・春の雨けぶる欅の梢よりをりをり露のかがやきて落つ

大正13年6月雑誌「日光」(初出)に発表された歌。
この歌碑は市内三ヶ島の葭子の曾祖父ゆかりの中氷川神社の境内に立つ。曾祖父は「日歌輪翁」と呼ばれた文人で「日歌輪翁之碑」も境内に立つ。

春の芽吹きの季節。欅の新緑にけぶるような雨が降り注ぐ。草木を成長させる恵みの雨が、梢から露となって輝いて落ちてくる。病気がちな葭子ではあるが、草木の芽吹きと静かな雨に心が洗われ、気持ちが晴れ晴れとしてくるようだ。

2 神明社境内

・しみじみと障子うす暗き窓の外音立てて雨の降りいでにけり

昭和2年未発表作 葭子40歳の絶詠歌。
病弱な葭子は脳溢血に倒れた後、懸命に養生をしていた。

障子を立てきって薄暗い部屋で寝ていると、激しく音を立てて雨が降り出した。一人寂しく養生をしている葭子であるが、雨の音の激しさに心がかき立てられるような気がしたのだった。

3 あきる野市 徳雲院境内

・筏組む木の音冴えて水ませるあさけの谷に鶯の鳴く

葭子が小宮村尋常高等小学校代用教員として勤めていた下宿先の近く、徳雲院境内に立つ歌碑
(あさけの谷=朝気の谷の意味か)
材木を切り出して、筏を組んで運んで行くのだが、その筏を組む音がさわやかな朝の気の中に川の瀬音とともに聞こえてくる。瀬音もいつもより高く増水しているのだろうか。静かな山里に鶯が鳴いている。筏を組む威勢のよい音、谷川の水音、鶯の声、明るくさわやかな春の気などが伝わってくる、若々しい感性が読み取れる。

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